(142)なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?

牧師の息子ボビイは、ゴルフの最中に崖下に転落した瀕死の男を発見した。男はわずかに意識を取り戻すと、ボビイに一言だけ告げて、息を引き取った。「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」―幼なじみのお転婆娘フランキーとともに謎の言葉の意味を追うボビイ。若い男女のユーモアあふれる縦横無尽の大活躍。

内容がタイトルのインパクトに勝てなかったのではというのが読後直後の感想。解説でもあったアメリカでのタイトルの「The Boomerang Clue」ほうが内容とのリンクを含めてふさわしいように思う(結局自分も一番感銘を受けたのがエヴァンズが誰かというより米題が示唆している内容だった)けどたしかにインパクトは本タイトルのほうが手に取りたくなるかもしれない。タイトルや幼馴染の男女とのロマン冒険活劇という内容も含め最近の日本のラノベみたいだなと少し思った。というより日本の作家がリメイクしたほうが本国の作家陣より上手かったりして。ミステリとしての不満はそこまでないのだけど、最初の「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」とか一方的に話すとか今の作家がやったら叩かれるだろうなとか貴族階級に対しての警察や弁護士の口の緩さとか時代的なことが色々気になった。ミステリだけじゃなく色んな要素が入ってるザッツエンタテイメントの内容で人もさほど死なないから学校の図書館に置いておくには丁度よいミステリじゃないかと思ったり。余談としては有名な話だけど「愚者のエンドロール」の副題は本作の捩り。
【採点】
★★★★★☆☆☆☆☆(5。気分的には5.5)

(141)蒲生邸事件

蒲生邸事件 (文春文庫)

蒲生邸事件 (文春文庫)

主人公・尾崎孝史は、大学受験に失敗し予備校受験のため上京したホテルで火災に遭遇、不気味な暗い雰囲気を漂わす同宿の中年男・平田に助けられる。しかし平田に連れられて避難した先は、二・二六事件真っ只中の戦前の東京であった。
ホテルが立っていた場所に当時あった蒲生憲之陸軍予備役大将の館に身を寄せた彼は、蒲生予備役大将の自決に遭遇する。第二次世界大戦へと走り始める当時の日本の将来を予言するかのように、「この国はいちど滅びるのだ」と遺書を残して自決したことで知られる蒲生予備役大将。現代に戻ることに失敗した孝史は、その場の状況から事件性を感じて犯人探しをはじめる。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%92%B2%E7%94%9F%E9%82%B8%E4%BA%8B%E4%BB%B6

新規開拓の一環としてド定番の宮部みゆき作品。これまで時代物の短編は読んだことはあってそれなりに面白かったけどそれほど印象に残っておらず、有名作品は大抵が長編だったのでこれで面白くなかったら辛いなぁと足踏みしていたのだけど全くそんなことなく。非常に面白かった。ジャンルとしてはSFになるのかな。そして広義な意味ではミステリといえなくもないかと。とはいえバリバリのミステリトリックが用いられるわけでなくすごいミスリードとか気にしていたけど全て無意味だった。でもそれが肩すかしにならないところがこの作品の強さ。最初のタイムトラベルを告白する下りまではトンデモ展開かと少し危惧したのだけどそこから最後まで読みやすいけど硬質な作品。結末が大団円気味で甘いという人もいるかもしれないけど最近辛い作品ばかり読んでいたので自分としては気分的によかった。最終章のタイトルで主人公の名前に込められた意味を初めて知らされるのはよいと思いました。個人的にはふきより珠子のほうが可愛いくないかと思ったけど。次は「理由」か「火車」あたりを。「模倣犯」は長すぎるから最後かな...。
あと今回から★採点を。自分で書いてて「面白い」「それなりに面白い」ぐらいの感想が多すぎて本当に面白い作品がいまいち良く分からなくなってきそうなのでもう少し数値化してみようかと。とりあえず10星満点で。ただ最初から面白い作品だったので採点基準がこれはこれで難しい。

【採点】
★★★★★★★★☆☆(8)

(140)光媒の花

光媒の花

光媒の花

印章店を細々と営み、認知症の母と二人、静かな生活を送る中年男性。ようやく介護にも慣れたある日、幼い子供のように無邪気に絵を描いて遊んでいた母が、「決して知るはずのないもの」を描いていることに気付く……。三十年前、父が自殺したあの日、母は何を見たのだろうか?(隠れ鬼)/共働きの両親が帰ってくるまでの間、内緒で河原に出かけ、虫捕りをするのが楽しみの小学生の兄妹は、ある恐怖からホームレス殺害に手を染めてしまう。(虫送り)/20年前、淡い思いを通い合わせた同級生の少女は、悲しい嘘をつき続けていた。彼女を覆う非情な現実、救えなかった無力な自分に絶望し、「世界を閉じ込めて」生きるホームレスの男。(冬の蝶)など、6章からなる群像劇。

短編集としては佳作。だけどミステリの道尾作品!と期待して読むと少し物足りない。連城三紀彦とかもそうだけどミステリ作家がだんだん純小説家としてスライドしていく過程を見ていくのは若干の寂しさが。最近思ったこととしてはミステリはパンクロックに置き換えれるのかなと。若いうちはテクニックよりもアイデア勝負とか。でも結局マーケットとしてパンクロックはあくまでもロックのマイナー寄りのジャンルの1つであるようにそこでそのマーケットのパイの取り合いを続けるのかどうかとか色々当てはめて想像したりする。全然本編の感想じゃないし。

(139)流れ星と遊んだころ

流れ星と遊んだころ

流れ星と遊んだころ

43歳、初秋。職業・芸能マネージャー。人生なんてもうどうでもいい、と思っていた。ある夜、ナイフの眼を持つ男と出逢った―「この男をスターにしてみせる」男たちの最後の夢を賭けたドラマがいま始まる

なにげに表紙がエロス。ミステリではないけど仕掛けあり。これミステリじゃないのかなぁと思いながら読んでたので中盤で見事に騙された。一応ジャンルとしては恋愛小説とはなるとは思うのでミステリを期待して読むと肩透かし感があるかも。自分ですけど。とはいえ仕掛けも含め連城作品らしいとこが随所に散りばめられている。個人的には求婚された登場人物の女性が左手薬指以外の9本の指に指輪を付けたという流れや描写は好き。

(138)龍神の雨

龍神の雨

龍神の雨

添木田蓮と楓は事故で母を失い、継父と三人で暮らしている。溝田辰也と圭介の兄弟は、母に続いて父を亡くし、継母とささやかな生活を送る。蓮は継父の殺害計画を立てた。あの男は、妹を酷い目に合わせたから。――そして、死は訪れた。降り続く雨が、四人の運命を浸してゆく。彼らのもとに暖かな光が射す日は到来するのか? あなたの胸に永劫に刻まれるミステリ。大藪春彦賞受賞作。

道尾作品らしい道尾作品というか。綺麗にガツンと。「はじめの一歩」で見えないところからのパンチが一番効くみたいな話があったけど道尾作品のトリックはそういう感がある。まぁ叙述物は殆どそうじゃんってのがあるとは思うけど、道尾作品はアンフェア感が少ないからこそ余計そう思うのかも。他の叙述物だと見えないところからの打撃という点では一緒でもボクシングなのにパンチじゃなく鈍器だったりするからなぁ。それはそれで好きですけど。本作の感想としては少し個々の感情の後付感を少し感じてしまった。あと最初は「青の炎」かよと思った。そしてどんでん返しがあっても辰也君は楓の体操着をパクってたのは事実というのは忘れてはいけないと思います。

(136-137)密室殺人ゲーム2.0&密室殺人ゲーム・マニアックス

密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)

密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)

「頭狂人」「044APD」「aXe」「ザンギャ君」「伴道全教授」奇妙すぎるニックネームの5人が、日夜チャット上で「とびきりのトリック」を出題しあう推理合戦!ただし、このゲームが特殊なのは各々の参加者がトリックを披露するため、殺人を実行するということ。究極の推理ゲームが行き着く衝撃の結末とは。

密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社ノベルス)

密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社ノベルス)

“頭狂人”“044APD”“aXe”“ザンギャ君”“伴道全教授”。奇妙なハンドルネームを持つ5人がネット上で日夜行う推理バトル。出題者は自ら殺人を犯しそのトリックを解いてみろ、とチャット上で挑発を繰り返す!ゲームに勝つため、凄惨な手段で人を殺しまくる奴らの命運はいつ尽きる!?

まさかの密室殺人ゲーム王手飛車取りの続編。前作のネタバレもあるので読む順番は間違えずに。正直密室物を連続で読むと脳みそがかなり疲弊するのであまりお勧めできない。どんなトリックだったか少し忘れ気味...。トリック自体は前作以上の衝撃は無いかもしれないけどより現代社会に近づいている気がする。マニアックスは特にtwitterなどに言及されることが多く一番現代寄りな内容。

(135)戻り川心中

戻り川心中 (光文社文庫)

戻り川心中 (光文社文庫)

大正歌壇の寵児・苑田岳葉。二度の心中未遂事件で、二人の女を死に迫いやり、その情死行を歌に遺して自害した天才歌人。岳葉が真に愛したのは?女たちを死なせてまで彼が求めたものとは?歌に秘められた男の野望と道連れにされる女の哀れを描く表題作は、日本推理作家協会賞受賞の不朽の名作。耽美と詩情―ミステリ史上に輝く、花にまつわる傑作五編。

日本ミステリの最高峰の1つと言っても過言ではない1作じゃないだろうか。これを読むまでは前評判が非常に高く自分の中での期待値が異常に上がりすぎていて実際読んだらどんな名作でも失望してしまうんじゃないのかと危惧していたのだけどその自分が一方的に設けたハードルも易々と乗り越えてくれた。というより自分が一方的に期待していたのがミステリとしてトリックの完成度というハードルだったのだけど、実は本作の素晴らしさはミステリ小説というジャンルとしての完成度というハードルだったという(とはいえ勿論トリックも秀逸だけど)「ストーリー」の為の「ミステリ」。そして「ミステリ」の為の「ストーリー」というべき見事な調和。何故本作でなく「恋文」が直木賞じゃないのか理解に苦しむほど。私事ながら学生時代にヨーロッパを1人旅をしていたのだけど、その時に各国の美術館で名画と出会った時に我が身を突き抜けた歓喜と戦慄と同質のものを本作を読了後に感じた。変な話だけどミステリを読んでて報われた気すらした。ミステリを初めて読む人に勧めたい1冊でもあるし、初めの1冊とするには贅沢すぎて勿体無い1冊だとも思う。名作。