(135)戻り川心中

戻り川心中 (光文社文庫)

戻り川心中 (光文社文庫)

大正歌壇の寵児・苑田岳葉。二度の心中未遂事件で、二人の女を死に迫いやり、その情死行を歌に遺して自害した天才歌人。岳葉が真に愛したのは?女たちを死なせてまで彼が求めたものとは?歌に秘められた男の野望と道連れにされる女の哀れを描く表題作は、日本推理作家協会賞受賞の不朽の名作。耽美と詩情―ミステリ史上に輝く、花にまつわる傑作五編。

日本ミステリの最高峰の1つと言っても過言ではない1作じゃないだろうか。これを読むまでは前評判が非常に高く自分の中での期待値が異常に上がりすぎていて実際読んだらどんな名作でも失望してしまうんじゃないのかと危惧していたのだけどその自分が一方的に設けたハードルも易々と乗り越えてくれた。というより自分が一方的に期待していたのがミステリとしてトリックの完成度というハードルだったのだけど、実は本作の素晴らしさはミステリ小説というジャンルとしての完成度というハードルだったという(とはいえ勿論トリックも秀逸だけど)「ストーリー」の為の「ミステリ」。そして「ミステリ」の為の「ストーリー」というべき見事な調和。何故本作でなく「恋文」が直木賞じゃないのか理解に苦しむほど。私事ながら学生時代にヨーロッパを1人旅をしていたのだけど、その時に各国の美術館で名画と出会った時に我が身を突き抜けた歓喜と戦慄と同質のものを本作を読了後に感じた。変な話だけどミステリを読んでて報われた気すらした。ミステリを初めて読む人に勧めたい1冊でもあるし、初めの1冊とするには贅沢すぎて勿体無い1冊だとも思う。名作。