(127)狐火の家

狐火の家 (角川文庫)

狐火の家 (角川文庫)

『防犯探偵・榎本シリーズ』の第2作。2005年から2007年の間に『野性時代』の間に収録された3編と書き下ろし1編を収録され、2008年に刊行、2011年に文庫化された。前作『硝子のハンマー』で使われずに溜まったトリックが使われているという[1]。『硝子のハンマー』から榎本・純子の関係者である鴻野・今村も登場し、次作『鍵のかかった部屋』にも登場する劇団「土性骨」は本作「犬のみぞ知る Dog Knows」で初登場。

榎本シリーズ2作目。正直トリックなどの完成度は前作の方が上。榎本と純子の犯行手段の可能性の潰しあいも個人的には冗長に思えるほど多すぎなように思う。ただ作品のノリとしてはこっちのほうがバラエティ的で個人的には好みかもしれない。「黒い牙」は虫がそれほど嫌いでは無い自分でも読みながら周りを見渡すほどの気持ち悪さ。「犬のみぞ知る」は完全にバカミスといっていいと思う。本作品に限らずこの作者本当に駄洒落好きだなと思う。ここからは完全に余談なのだけど日本のミステリにおける「三和土(たたき)」の使用率の高さは異常。むしろミステリでこの読み方を初めて知ったんだけど「土間」じゃ駄目なのかと。

(126)硝子のハンマー

硝子のハンマー

硝子のハンマー

『防犯探偵・榎本シリーズ』第1作。幾重にも張り巡らされたセキュリティを掻い潜り、オフィスビル内の最上階で介護サービス会社社長が撲殺された事件の謎を追う。物語は2部構成となっており、前半の第一部は榎本と純子があらゆる可能性を模索しながらトリックに辿り着くまでを描き、後半の第二部は事件の真犯人が犯行を実行するに至った背景と実行模様が描かれた倒叙形式となっている。2005年に第58回日本推理作家協会賞受賞。

久々の貴志祐介作品。この人が書くミステリの特徴としては実現性をとことん追求しているとこだろうか。「青い炎」ではわざわざ後書きで模倣犯が出ないようにトリックの欠陥を記述しているぐらい精密な仕掛けを考案。本作品でもそれが存分に発揮されていて、おおまかな殺害方法に関してはタイトルから推測することは可能かもしれないけどディティールまでとなると絶対無理と言い切れる。やたら具体的且つ実践的。日本の「本格」と海外ミステリを足して2で割るとこの人の作風になるような。面白さとしてはそこそこかなぁ。

(125)赤目四十八瀧心中未遂

赤目四十八瀧心中未遂

赤目四十八瀧心中未遂

「私」はモツを串に刺し続けた。女の背中には迦陵頻迦の刺青があった……。救いのない人間の業と情念を見事な文章と技法で描く傑作

チョモのオグに車谷長吉が面白いといわれたのでとりあえず図書館にあった借りてみた一冊。たしかに面白かった。西村賢太作品が好きな人なら問題無く嵌れるだろう。両者とも共通しているのは「破滅型」というべき私小説家という点か。むしろそういう「破滅型」じゃない私小説家っているんだろうか。このジャンルはあまり詳しくないので良く分からないところだけど。いずれにしろ量を読んで楽しむよりも質で楽しむジャンルだなと思う。むしろジャンルという言葉の軽薄さも適切でないような。「モツを刺して暮らす生活」というのは少し憧れるような。本筋とは関係無いけど関西出身の人が書く関西弁って関東の作家が書く関西弁と明らかに違うなと改めて思った。別に関東の作家が書く関西弁がわざとらしいというわけではないのだけど関西の作家が書く関西弁を読むと「しっくりくる」とつい思ってしまう。音声化していないのにそう思うのはリズムのせいか言い回しの豊富さか。本作品でもその関西弁が作品の生々しさを更に生み出しているように思う。

(124)氷菓

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ登場!第五回角川学園小説大賞奨励賞受賞。

毎週楽しみにしているアニメがそろそろ終盤ということでそろそろ古典部シリーズを読み始めようと思い1作目の氷菓を。先にアニメを見ているせいで原作とアニメとの差異を探して読んでしまったが基本的にはかなり原作準拠なんだなと思った。壁新聞部でのくだりはアニメのほうが分かりやすいと思ったが、最後の氷菓の謎を解くシーンの説得力と切実さでは原作のほうが良かったように思う。ミステリファンとしては北村薫の私シリーズの「日常の謎」系譜をなぞる佳作として位置づけることは出来るけど、一般読者特にライトノベルとしては地味なのは事実。そういう意味ではアニメ化は千反田のキャラクター力を強めて印象付けることに成功していると思う。ただ原作の千反田のキャラクターも米澤作品の登場人物らしくてよいと思う。引き続き続刊も。

(123)すべてがFになる

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む。新しい形の本格ミステリィ登場。

理系ミステリーというかコンピューターの仕組みを利用したトリック(むしろタイトルは特定の職種の方にとってはそのまんまともいえる)が本作の売りなのかもしれないが、個人的にはそれらの点にはあまり惹かれなかった。むしろ今まで登場していなかった登場人物を違和感なく参加させるトリックが一番驚いた。その手があったかと。ただネタバレ的な疑問というか不満としては一度真賀田四季の死体を確認をしたときに間違いなく真賀田四季だと断言する記述があったように思ったんだけどそれはフェアなのか?他にも色々気になるところがあったように思えたけどメイントリックで十分元は取れたかなと。余談だけど作者の授業を受講している生徒は犀川と西之園のラブロマンスをどのような気分で読んでいたんだろうかと下世話ながら考えてしまった...。

(122)隻眼の少女

隻眼の少女

隻眼の少女

古式ゆかしき装束を身にまとい、美少女探偵・御陵みかげ降臨!因習深き寒村で発生した連続殺人。名探偵だった母の跡を継ぎ、みかげは事件の捜査に乗り出した―。

最初は読んでて「設定はそれなりに面白いしロジカル的なとこもまぁまぁしっかりしてるけど説得力が全く無くてつまらないなぁ。これ本当に各賞を受賞した作品なんだろうか。まぁ初読の作家だからとりあえず最後まで読んでみるか」とか思ってたら残り30ページでひっくり返された。つまらなさもある種複線だったというか。終わってみたら納得の面白さ。久々に叙述トリック以外のどんでん返しを読んだ気がする。ただ、どんでん返しの結果生まれた新しい推理で突っ込み入れたいところも結構有。基本的には多少の無理は容認するほうなのだけど「腹話術」だけは納得いかない...。

(121)霧越邸殺人事件

霧越邸殺人事件 (新潮文庫)

霧越邸殺人事件 (新潮文庫)

或る晩秋、信州の山深き地で猛吹雪に遭遇した8人の前に突如出現した洋館「霧越邸」。助かった…安堵の声も束の間、外界との連絡が途絶えた邸で、彼らの身にデコラティブな死が次々と訪れる。密室と化したアール・ヌーヴォー調の豪奢な洋館。謎めたい住人たち。ひとり、またひとり―不可思議極まりない状況で起こる連続殺人の犯人は。驚愕の結末が絶賛を浴びた超話題作。

少し前に読んだ作品なのでうろ覚えなのだけど「殺人鬼」や「another」もそうだけど綾辻行人の本格推理のロジカルと超常現象の相反する要素をしれっと混ざるのが本当に上手い作家だなと思った記憶がある。ただ本作に関してはその後者の「遊び」が強く出すぎているように思えた。それはそれで個人的には好きなのだけど。トリック自体はそれほど目新しいものではなかったかもしれない。まぁ20年以上前の作品に目新しさを求めるのはおかしいだろうけど...。とはいえ最後まで一気に読めた。最高傑作ではないにしろ読んで損無しの一作というところ。