(045)ガープの世界

「小説家というのは、死に到る患者しか診ない医者のことだよ」

ガープの世界〈上〉 (新潮文庫)

ガープの世界〈上〉 (新潮文庫)

ガープの世界〈下〉 (新潮文庫)

ガープの世界〈下〉 (新潮文庫)

アーヴィングの作品はいくつか読んでて「オウエンのために祈りを」「ウォーターメソッドマン」「ホテル・ニューハンプシャー」は既読。アーヴィング作品はこれと「サイダーハウス・ルール」が有名ということで結構期待して読んでみた。本作では「T.S.ガープ」という数奇な小説家の一生を描いたもので、時々ガープの作中作もあったりする。このガープという作家はウィーンで青春時代を送ったり、レスリングをしていたりと、アーヴィング本人と共通している点が多い。というよりアーヴィング作品には上記以外にも「熊」「強姦」など繰り返して出てくるキーワードが結構あるということにいくつか読んでてようやく気が付いた。村上春樹の「井戸」とかに近いものでそれだけパーソナルなキーワードなのだろうか。アーヴィング作品の特徴としては人生の特殊なパートだけ切り取って描写するのではなく、登場人物の生まれてから死ぬまでを綿密且つ執拗に描くことが多いようで本作もタイトル通りガープの世界、ガープが生まれてから死ぬまでを描いている。読み応えがあり、過去に登場した登場人物もほぼ漏れなく再登場したりとラフなようで緻密な構成は流石。その一方で読むのが結構ハードというか体力を要求されるので一気読みすると結構辛いし、一気に読まないと前の展開を忘れがちなので悩ましい。アーヴィング作品って正直読んでいるときは飽きはしないのだけどやたらテンポ良いわけでも無いのでそこまで面白いとは思わないことが個人的には多く、若干意地で読んでるところもある。でも読後数日経つと非常に面白かったと思えてくる。この感覚は旅行するときに似ていて、旅行も旅行前と旅行後が楽しいのだけど、旅行中自体は実は意外と退屈だったりする。「ガープの世界」の感想というよりかはアーヴィング作品の感想になってしまった。とりあえずこの作品アーヴィング既読作品の中では個人的には2位。(1位は「オウエン〜」)「サイダーハウス・ルール」も読みたいのだけど、先述した例えで言えば毎日が旅行だと苦痛なので、また暫くしてから読もうかと思っている。