(097)空飛ぶ馬

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

「私たちの日常にひそむささいだけれど不可思議な謎のなかに、貴重な人生の輝きや生きてゆくことの哀しみが隠されていることを教えてくれる」と宮部みゆきが絶賛する通り、これは本格推理の面白さと小説の醍醐味とがきわめて幸福な結婚をして生まれ出た作品である。異才・北村薫のデビュー作。
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488413019

日常の謎」系ミステリの元祖的作品にて最高峰の一つじゃないだろうか。同系列の作品が好きな人にとっては文句無しの一冊だと思う。正直最初の短編ではあまり感じ入れなかったのだけど、キャラクター把握が深くなるに従い徐々に面白くなり「赤頭巾」で頂点を迎えた後、タイトルにもなっている「空飛ぶ馬」で綺麗に収まるという秀逸な流れ。ネタバレ気味になるのだけど「あかずきんと狼」の構図が「女と男」に当てはまるというのは目から鱗。別に普通に昔から有名だろうけど「赤頭巾」という作品があまりにおとぎ話として普遍すぎて想像すらしなかった。個人的には「私」が非常に好感を持てるキャラクターで良かった。大抵の作品ではボーイッシュな外見だと言動もそれに合わせたようにややエキセントリック気味な男勝りのものだったりしてそれが成功していないと読んでて厳しいものがあるのだけど「私」は普通の女性、女学生のままでいてそれが作品の穏やかな雰囲気づくりに貢献しているように思う。逆にいうと映像化するとキャラクター的には地味なのかもしれない。同様に作品としても突拍子の無いトリックがあるわけでないので勢い込んで読むタイプの作品ではないだろうが間違いなく良作。続編も期待して読みたい。余談だけど作中では落語家の円紫では出るということで頻繁に落語の演目が出てくるのだけど落語の落ちへの展開は最近興味があるので今度本格的に落語関連の書籍は読んでみたいと改めて思った。いい本あるかな。